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秋田地方裁判所 昭和24年(行)19号 判決

原告 白川久太郎 外一名

被告 秋田県知事

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、請求の趣旨

被告が昭和二十四年三月二日別紙各目録記載田地につき同二十三年農地訴願第八八号を以てなした訴願裁決はこれを取消す訴訟費用は被告の負担とする。

三、事  実

(一)  原告等は請求の原因として次の通り述べた。

(1)  原告等はいづれも專業農家で各農地一町歩余を耕作しその殆んど全部が小作地でありそれぞれ農耕馬及十分な農耕具を有し且つ家族多数で働き手も多く農耕力豊富な精農であり、訴願人である訴外畠沢清次郎(訴願裁決書中畠山清次郎とあるは誤記)は俸給生活者でかつ地主であり二町歩余の農地を所有して居るがその殆んど全部を小作させて居り農耕馬、農耕具なく働き手の家族もない農耕力皆無のものである。

(2)  畠沢清次郎は昭和十二年中所有農地の内別紙第一、二号目録記載の田地を訴外同和鉱業株式会社に讓渡し同時に同会社から鉱業用地として使用する必要を生じない限りとして小作地として賃借しこれを訴外畠沢清五郎に轉貸したが、昭和十五年中原告白川に対しその内別紙第一号目録記載の田地を小作するようにすすめたので同原告は当時訴外高橋多平、高橋善五郎等から小作して居た田地合計約五反歩を返還し畠沢清次郎の申入を承諾してこれを賃借耕作することとし、昭和十七年から畠沢清次郎は本件田地中別紙第二号目録記載の田地を訴外花岡小学校に轉貸してあつたが同二十年一月中その妻イシを介して原告藤盛に対しこれを小作するようにすすめたので同原告は訴外鳥潟久夫から小作して居た田地を返還し畠沢清次郎の申入を承諾して賃借耕作することとした。

尚畠沢清次郎は昭和十五年中満洲国官吏となつて渡満し同二十年五月にはその妻子も家屋を賣却して北秋田郡大館町に移住し二井山部落には小作農地を残すのみであつた。

(3)  然るに昭和二十年十一月二十三日の政府の公表により農地に対する画期的大改革が断行されることが明かとなるや畠沢清次郎は同二十一年二月から妻イシを介して原告等に本件小作地の返還を迫り同年三月末殆んど強制的にこれを取上げ同年十月には清次郎は満洲から引揚げ二井山部落に家屋を建築し妻子と共に生活するようになつたが本件田地を自ら耕作することなく花岡町農地委員会書記に就任し依然俸給生活をつづけ本件田地は表面妻イシが耕作して居ることにして居るけれども実際は親族縁者に委せて耕作させて居るものである。

(4)  前述のように本件田地の昭和二十年十一月二十三日現在の耕作者は原告等であり土地所有者である訴外同和鉱業株式会社の本社は東京都にあり同会社は不在地主であるので原告等は昭和二十二年十月一日自作農創設特別措置法施行令(昭和二十二年一月二十五日勅令第二五号)附則第四十三條に基く請求書を花岡町農地委員会に提出し同委員会は昭和二十三年七月本件田地を同二十年十一月二十三日現在の事実に基き農地買收計画をたて次で農地賣渡計画をたて同賣渡計画では原告等の買受申込により昭和二十年十一月二十三日現在の耕作者であつた原告等にそれぞれ賣渡すこととなつて居たが畠沢清次郎は右賣渡計画に対し異議を申立て現在の耕作者である同人に賣渡すよう計画の変更を求めたが同委員会は右異議申立を理由なしとして却下し清次郎は同年七月二十四日更に被告に対し訴願したところ被告はこれを容れ本件田地は現在の耕作者である畠沢清次郎に賣渡すべきで昭和二十年十一月二十三日現在の耕作者である原告等に賣渡すべきでないとの趣旨の裁決をなした。

(5)  しかし被告の右裁決の理由として挙げて居る事実には著しい誤りがある即ち被告は其の裁決の理由中に於て両当事者の主張に基き再三調査を行いこれを審議するにと前提して「本件農地は訴願人清次郎の亡父の時代よりの自作地であつた」と認定しているが清次郎の亡父在世中は自作せる場合があつたかも知れないが昭和五年一月亡父清助の死亡に因り清次郎が相続してからは同人は自作せず本件田地は小作地となつたのである、又「原告等への轉貸は昭和十七年娘病気の爲手不足となつた爲の一時的轉貸であつた」としているが娘病気の爲耕作に手不足になつたのではなく清次郎は農耕力殆んど皆無で耕作出來なかつたためであるこの事は娘が病気にならない前に於ても自ら本件農地を耕作することなく親類の畠沢清五郎に小作させていた事実に徴しても明かであつて本件轉貸は決して一時的轉貸ではなかつたのである。次に「昭和二十年十月前農業会長畠沢藤太郎が仲に入り返還することに決定したのに翌昭和二十一年三月白川はまたまた大館区裁判所に小作調停を提起したが換地四反歩を與える事を條件とし事件は取下げとなつた」とあるけれども、清次郎の親類である畠沢藤太郎が本件田地取上げについて口を容れたのは昭和二十一年二月で併も返還することに決定したのではなく、殆ど強制的に執ように取上げを策して來たので自衞のため原告白川は同年三月小作調停を申立てたのであり、申立を取下げたのは換地を與えられた爲ではなく清次郎の取上げの策動が余りに執よう且強制的で調停が成立してもそれは法的のもの丈であつて事実上小作を続けて行くに堪えられない実情であつたからである。この事は原告等に換地を與える條件は賃貸期間を昭和二十五年迄とし、且一反歩につき粳玄米一石の割合の小作料を納めることと言う極めて不利なもので謂わば本件農地取上げのための一時的方便に過ぎず、原告等の到底満足の出來ない條件であつたことに徴するも明かである。更に「昭和二十一年より清次郎方に於て耕作をして來たもので清次郎が本件農地を耕作するに至つた事情は当事者間の合意に基くものである」とあるけれども清次郎は昭和二十一年三月末原告等より本件農地を取上げた上事実上はその親類縁者に耕作させているもので清次郎方は單なる名のみの耕作者に過ぎないのであり、又取上げ事情は既述の如き経緯であつて、決して当事者の合意に基くものではないのである。尚清次郎が原告等に一時的に賃貸した換地は清次郎が訴外畠沢金満外一名に小作させていたもので清次郎は之等を小作人から取上げて原告等に一時換地として賃貸した事情にあるため該換地に対する昭和二十年十一月二十三日現在の耕作者である右畠沢金満等から同日現在の事実に基き花岡町農地委員会に買受けの申込を爲し同委員会は之を容認し、賣渡計画をたてているので右換地は原告等と清次郎との間に於ける賃貸期間を経過せざるうちに取上げられるに至る事情にあり。

(6)  被告は其の裁決の理由の末尾前段で本件田地の賃貸借の解約は昭和二十一年十一月二十二日以前に成立したものであるから農地調整法第九條の違反とはならないと言つて居るけれども本件農地に対する賃貸借の解約たるものは昭和二十一年三月末日なされたものであるから昭和二十年十二月二十八日法律第六十四号農地調整法第九條第三項の規定に依り花岡町農地委員会の承認を受けなければならない。然るに清次郎はその承認を受けずに而も殆んど強制的に解約したのであるから違法の極みと言わねばならないのみならず、既述せる解約前後に於ける両当事者の事情乃至解約に至つた経緯等から考えて見れば其の解約は亦甚だ不当といはなければならない。

(7)  もつとも昭和二十一年二月一日より施行された昭和二十年法律第六十四号農地調整法第九條には昭和二十一年十一月二十二日から施行された昭和二十一年法律第四十二号農地調整法第九條第四項の如き不承認解約の無効の規定がないのであるが、前者の第九條に依る承認を得ざる解約も後者の第九條に於けると同じく当然無効と解すべきもので唯爭いを避くるため後者の第九條に更めて第四項の規定を挿入し之を明白にしたに過ぎないと認むるを相当と思料する。從つて清次郎の本件農地に対する賃貸借の解約は農地委員会の承認も縣知事の許可も受けずになしたもので当然無効と認むべく耕作権は依然原告等に存し清次郎に存しないから仮りに本件農地を現在の耕作者に賣渡すべきものであるとするも、現耕作権者たる原告等に賣渡すべく清次郎に賣渡すべきものではないから本件裁決は違法である。

(8)  被告は其の裁決の理由の末尾中段で本件土地の賣渡しについて遡及規定を適用するのは妥当を欠くものであるといつているけれども、所謂農地を遡及買收した場合即ち自作農創設特別措置法附則第二項の規定により農地買收計画を定めた場合には原則として昭和二十年十一月二十三日現在の耕作者に賣渡すべきものなることは同法施行令第十七條第一項第一号の規定に依り明かで、この原則は昭和二十三年十月五日政令第三百十五号に依り右施行令の改正される迄は絶対的のもので全く例外の取扱を許されていなかつたのである。而して本件農地は原告等の請求に依り花岡町農地委員会で自作農創設特別措置法附則第二項の規定により買收計画を定められたものに係り而も其の定められたのは右施行令の改正前たる昭和二十三年七月であるから該農地の賣渡の相手方を昭和二十年十一月二十三日現在の耕作者なる原告等として賣渡計画を定めたのは当然で該計画には毫も違法も妥当を欠く点もなく却つてこれを変更し、清次郎に賣渡すべきものとした被告の本件裁決は違法である。

(9)  昭和二十三年十月五日からは前記施行令第十七條第一項第一号の規定が改正施行され、初めて原則に対する例外の取扱が許されたのであり其の例外規定は昭和二十三年十月五日からの買收賣渡につき適用されるもので、その以前に旧施行令に基き定められた買收計画については特に遡及適用の規定のない限り適用することが出來ないと解すべきものと思料する。從つて被告に於て改正施行令を遡及適用して現在の耕作者なりとする清次郎を賣渡の相手方となすべきものとして本件賣渡計画変更の裁決をしたとすれば其の裁決は違法である。

(10)  尚原告等は本件裁決の取消を受けることにより賣渡計画は復活して本件田地の買受人となり、又取消を受けることが出來なければ花岡町農地委員会は被告の裁決に覊束され訴外清次郎を賣渡の相手として賣渡計画をたてることとなり、之に対し原告等が異議申立をしても却下されることは明かであつて、いたづらに時間と費用を浪費することになるばかりでなく、たとえ原告等が右異議の申立ができるからといつて町農地委員会の賣渡計画変更処分と被告の本件処分とは法律上別個の行政処分であり、以上の理由で原告等は本件裁決により直接その権利を害され法律上の利害関係を有するもの即ち訴の利益を有するものである。

(二)  被告は答弁として次の通り述べた。

請求原因中第(1)項については訴外畠沢清次郎の所有農地の反別及農耕具及働き手の家族が無く農耕力皆無であるとの点を否認しその他の事実は認める。

第(2)項については原告等が本件農地を小作する爲め他の小作地を地主に返還したとの点は不知訴外畠沢清次郎渡満の事実を認めその他の事実は否認するもつとも清次郎渡満後妻イシが昭和十七年中別紙第一号目録記載田地を原告白川に第二号目録記載田地を原告藤盛に一時賃貸した事実はありイシが昭和二十一年六月中家屋を賣拂つて一時大館町の親戚に寄寓し花岡町に通つて田畑の耕作をして居た事実もある。

第(3)項については清次郎の留守中イシが原告等に対し本件田地の返還を求め、その返還を受けた事実清次郎が帰国し、二井山部落に残つて居た小屋を改造し妻子と共にこれに居住し農地委員会書記として勤務するかたわら妻子と共に農耕に從事して來た事実はあるがこれに反する事実は否定する。

第(4)項の事実は認める。

第(5)項乃至(9)項については被告は、

(イ)  本件田地は清次郎が先代以來昭和十二年頃まで自作して居り、同年中同和鉱業株式会社に賣却すると同時に同会社から小作して來たものであるが、昭和十五年満洲国官吏として赴仕し妻子が弟等の援助を受けて耕作して來たところ昭和十七年中娘の病気の爲妻が一時他に轉貸したものであり小作権を讓渡したものでもなく長く轉貸したものでもない事実

(ロ)  昭和二十年十月中花岡町前農業会長畠沢藤太郎が仲裁して本件田地をそれぞれ合意上返還を受けた事実

(ハ)  昭和二十一年三月原告等が小作調停を申立て清次郎から換地各四反歩を提供して解決し本件田地は清次郎が耕作して現在に至つた事実

(ニ)  清次郎は昭和二十一年中帰国し花岡町農地委員会の書記に就職したが俸給が十分でないので妻子と共に若干の農地を耕作しなければ生計が保てない事実

を認定して本件田地は清次郎に賣渡すべき旨の訴願を認容したものである。

原告等は本件田地は遡及買收をしたものであるから請求人であり昭和二十年十一月二十三日現在の耕作者であつた原告等に賣渡すべきであると主張するけれども、仮りに右日時の耕作者が原告等であり花岡町農地委員会が原告等の請求に基き遡求買收の意味で買收計画をたてたとしても被告がこれを承認したのは買收を相当と認めて承認したものであつて、遡及買收を認めたものではない。即ち本件田地は昭和二十年十一月二十三日当時と買收当時とは所有者に変りがなく、不在地主である同和鉱業株式会社の所有地として普通買收の出來るものであるが、同会社が清次郎から買受けた目的は鉱業用地とするにあつたため愼重を期して買收をのばして居たところ、たまたま原告等の請求があつたので買收を決意したに過ぎず、從つて被告の買收計画承認は普通買收としてなしたものであつて原告等の主張は理由がない。被告の訴願裁決理由中「從つて本件田地の賣渡について遡及規定を適用するのは妥当でない」との文言は説明不十分のきらいはあるが、これを法律的に説明すれば原告等は昭和二十年十一月二十三日当時の耕作者ではなく仮にそうであつたとしても遡及買收でないから、その後原告等と清次郎との轉小作契約が合法的に解約され買收当時清次郎が耕作者である以上特別の事情のない限り本件田地は清次郎に賣渡すべきで原告等に賣渡すべきではないというにある。又原告等は清次郎と原告等との轉小作契約の合意解約は縣知事の許可を得ない無効のものであると主張するけれども、昭和二十三年十二月二十五日の農地調整法の一部改正により合意解約も縣知事の許可を要することに定められるまでは、その許可を要しなかつたものと解するを相当とするので、この点についての原告等の主張も誤りである。(立証省略)

四、理  由

原告等の本訴請求の要旨は、原告等は訴外畠沢清次郎からそれぞれ本件田地を轉小作して居たところ昭和二十一年三月中清次郎から取上げられた原告等は昭和二十二年十月一日花岡町農地委員会に対し昭和二十年十一月二十三日現在に於ける原告等の耕作者たる事実に基き、自作農創設特別措置法の定めるところにより本件農地の買收を請求し同委員会は同日現在の事実に基き買收計画及賣渡計画をたて原告等にそれぞれ賣渡すこととした。訴外清次郎は右賣渡計画に対し異議の申立をなし、異議が却下となるや被告に対し訴願したところ被告は右訴願を認容し本件田地は原告等に賣渡すべきでなく買收計画当時の耕作者である訴外清次郎に賣渡すべき旨の裁決をなした。しかし右裁決はその基礎たる事実の認定を誤りかつ法の適用を誤つた違法の裁決であり原告等は右裁決により直接その権利を侵害された者であるからその取消を求める。

というのである。

思うに行政処分の違法を主張し、その取消を求める訴に於ては原告たるものはその処分により直接権利を侵害された者でなくてはならないのであるが、

本訴についてみると、

被告の裁決は花岡町農地委員会が原告等に対し賣渡すべきものとしてたてた本件田地の賣渡計画を不当とし訴外清次郎に賣渡すことに計画を変更すべきことを同農地委員会に指示する趣旨の裁決であつて原告等は同委員会が裁決の趣旨に從つて賣渡計画を変更した場合、はじめてその権利を侵害されたものと主張し訴願手続を経た上で出訴することが出來るのであつて右裁決があつたというだけでは原告等はただ將來権利を侵害されることを予測し得るのみで未だ具体的に権利を侵害されたものとは認められない。

原告等はこの点について裁決自体によつて権利を侵害されたものであると主張するけれども、その主張は前示認定と異り原告等の独自の見解に出でたものに過ぎないからこれを採用することは出來ない。

以上の理由により原告等の本訴請求は結局その救済を求める訴の利益がまだないことになるので実体に入つて判断するまでもなく失当である。

よつて原告の請求を排斥し訴訟費用については民事訴訟法第八十九條第九十三條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 篭倉正治 草深今朝重 秦不二雄)

(目録省略)

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